耳抜き (圧平衡)

投稿日時2007/03/13 23:12コメント(0)トラックバック(0)カテゴリスキル固定リンク編集削除
人生で二度ほど、「耳抜きをしたことない」という人に出会ったことがあります。

一人はモルディブのクルーズで一緒だった人で、もう一人は今でも会社の同僚です。この二人、経験本数もそれほどないのですが、そもそもオープンウォーターの講習のときから耳に違和感を覚えたことがなく、耳抜きの必要性も感じなかったそうです。

なぜ耳抜きをするの?

人間の体には、いくつかの空間 - 隙間があります。もっとも大きな空間は肺ですね。意外と知られていませんが、ほお骨の下と、それから内耳(鼓膜よりも奥の部分)も代表的な体の中の空間です。ほお骨の下は副鼻腔と呼びます。内耳と副鼻腔をあわせてサイナスと呼びます。

ダイビング中は、常に体の周囲の圧力が変化します。潜降時、浮上時だけでなく、水平に泳いでいるつもりでも、ちょっとした深度変化で周囲の水圧が大きく変化します。周囲の圧力 - 水圧 - が変化すると、肺や内耳など気体で満たされた空間は大きな影響を受けます。潜降時に耳が内側に押されていくように感じるのは、耳の中にある空気の圧力よりも周囲の水圧のほうが高くなるため、鼓膜が内側に向かって強く押されるからです。

周囲の水圧と体内の空間を満たす気体の圧力の差が著しくなると、体にいろいろな不都合が生じます。典型的な症状では、耳が痛くなったり、鼻血がでたりします。このような状態を防ぎ快適なダイビングを楽しむためには、周囲の水圧と体内の空間の圧力を等しく保たなければなりません。これを圧平衡といいます。

肺の圧平衡

スクーバ・ダイビングの基本的なルールを覚えていますか? 呼吸を止めないこと、ですね。このルールは、肺の内部の圧力を常に周囲の水圧と同じに保ち、肺が潰れたり破裂したり(肺の過膨張障害)するのを防ぐためにあります。肺は体の中の空間としてはもっとも体積が大きく、もっとも周囲の圧力変化に影響を受けます。呼吸を続けることによって、肺には常にレギュレータを通して「周囲の水圧と同じ圧力の空気」が供給されます。呼吸をしつづけることによって、肺の圧平衡を行います。

急激な深度変化は常に危険を伴いますが、息ごらえをしていると危険が大きくなります。これは、肺が密閉された状態で周囲の圧力が急速に変化するため、血管内の気泡の問題とは別に、肺の過膨張障害の危険性が高くなります。ダイビングでは呼吸を止めないこと、息ごらえをしないこと、そして急速な深度変化は(たとえ深度を深くする方向であっても)避けるようにしましょう。

サイナスの圧平衡

サイナス(耳と副鼻腔)の圧平衡は「耳抜き」を通して行います。耳抜きの方法にはいくつかあります。代表的なものは、鼻を指でつまみ、鼻をかむように「いきむ」ことです。内耳と副鼻腔はそれぞれ鼻と細い管でつながっているので、鼻を指でつまみ(息の出口をふさぐ)、いきむことで細い管を押し開けて空気が内耳と副鼻腔に満たされます。

上達してくると、鼻をつままなくても唾を飲んだり、あごを左右に動かしたり、あくびの動作をすることで耳が抜けるようになる人もいます。

なお、鼻をつまんでいきむのは、サイナス内の圧力に較べて周囲の圧力が増していくとき - 深い場所へ移動するとき - です。浅い場所へ移動するとき - 周囲の圧力が減っていくとき - にこの動作を行うと、本来サイナスのなかから空気を放出しなければならないのに、さらに空気を押し込むことになるので、さらに圧力差が増えてしまいます。

浅い場所へ移動する場合、サイナスからは「勝手に」空気が抜けていきますので、とくに意識して耳抜きをする必要はありません。

リバース・ブロック

深い場所(水圧の高い場所)から浅い場所(圧力の低い場所)へ移動する場合、周囲圧が減少するので、肺やサイナスから空気を放出しなければなりません。肺は、呼吸をしつづけることによって圧平衡をします。サイナスは、周囲圧が減少すると、周囲圧と均衡になるまで、かってに空気が耳管や副鼻腔から抜けていきます。

風邪気味のときに無理して潜ったり、潜降時に適切に圧平衡をしないと、耳管や副鼻腔の入り口が一時的に詰まってしまうことがあります。これは、周囲圧の増大に対処するために浸出してきた細胞液や血液が耳管や副鼻腔に溜まったり、風邪などからくる炎症で腫れ上がったりすることがあるためです。

たまに浮上後にマスクに鼻血が溜まっている人をみかけますが、あれはダイビング中の興奮 - エビ好きな人がイセエビを見たとか - が原因ではなく、副鼻腔の圧平衡に失敗しているためです。周囲の高圧に対処するために血液と細胞液の混ざったものが(空気の変わりに)副鼻腔を満たし、浮上にともなってそれが鼻血として排出されるます。思春期の鼻血のように鼻の粘膜の裏の静脈が傷ついているわけではありません。

周囲圧が高い場所でかろうじて圧平衡ができていても、浅い場所へ移動しようとしたときに耳管が詰まってしまい、空気を逃がせなくなってしまうことがあります。これをリバース・ブロックと呼びます。典型的な症状は、浮上時に耳に違和感を覚え、一定以上の深度よりも浅い場所へ移動しようとすると痛みを覚える、というものです。

このようなときには、いったん耳から違和感が消える深度までもどり、通常よりもゆっくりとしたスピードで再度浮上を試みます。どんなにゆっくり浮上しても耳から違和感が抜けない - リバースブロックが改善しない - 場合には、バディに知らせ、可能な場合には、プロのダイバーに助けを求めてください。

リバース・ブロックを防ぐためには、1: 耳抜きを頻繁に行うこと、2: 調子の悪いときには勇気を持って潜らないこと、が肝心です。

耳抜きのコツ

圧力変化は、深度が浅ければ浅いほど大きくなります。耳抜きはとくに潜降時にはこまめに行うようにしましょう。僕の経験で「もっとも耳が抜けにくかった人」の場合、潜降ロープをまず右手で握り、耳抜きをし、右手のすぐ下を左手で握り、耳抜きをし... と、こぶしひとつぶん潜るたびに耳抜きをすることでやっと潜れた、という人もいます。深度が浅ければ浅いほど、しつこいほど頻繁に耳抜きをするのがコツです。

耳抜きに不安がある人はフリー潜降はしないようにしましょう。潜降というのは以外に難しいスキルで、潜降スピードを調整するのは実は初心者には至難の業です。潜降スピードを意識してコントロールしている人、います? 耳抜きに不安がある場合は、潜降ロープを使って潜行スピードを調整できるようにしてください。

耳抜きがどうしてもできない

人間の体の構造上、耳や副鼻腔の圧平衡は誰にでもできます。耳抜きは - それがやりやすいか難しいかは別として - 生理的に誰にでも可能です。どうしても耳抜きができない人は、インストラクターに相談してください。

耳の病気で耳抜きができない人もいますので、インストラクターに相談して、耳鼻科の受診を奨められたら、耳鼻科にいきましょう。点耳薬や内服薬で症状が改善する人もいます。

落ち穂拾い

そうそう。モルディブで一緒だった「耳抜きをしたことのない人」。その人は、クルーズの3日目で風邪気味になってしまい、はじめて「耳抜きの必要性」を感じました。そのときには... 彼は耳抜きのテクニックをしらなかったのですね... とき既に遅く、浮上後に耳が痛い、と言っていました。大事には至らなかったようですが。

みなさん、耳抜きのスキルをもう一度見直しましょうね。
この記事へのコメント
新しいコメントの投稿
新しいコメントは以下のフォームを利用して投稿して下さい。
実名、住所、電話番号、メールアドレスなどの個人情報は、非公開情報欄に記入して下さい。
非公開情報欄に記入した情報は公開されず、メンバーのみが閲覧できます。
コメント本文は公開されますので、個人情報などは記入しないようお願いします。
コメント表示領域の横幅は640ピクセルです。
横幅640ピクセルを超える画像等を貼り付けた場合、表示領域に入りきらない部分は表示されませんのでご注意ください。
ニックネーム [必須入力]

非公開情報

ホームページアドレス

コメント本文 [必須入力]
この記事へのトラックバック